私は子供の頃から
聞き分けのいい子だった。
わがままも言わない。
一歩引いて周りに譲る、
優しい子供だった。
多分両親や兄弟やクラスメートは、
口を揃えて私の印象をそう語るだろう。
実際、小学校のクラスの文集には、
『優しい』だの『真面目』だの、そんな言葉で私を表現する言葉が並んでいた。
ただ、その分といってはなんだが、
私は昔から、大の嘘つきだった。
息を吸うように嘘をついていた。
嘘で生きていた。全てが嘘だった。
いい子も嘘なら、真面目も嘘。
優しさを他人に向けているようで、
いつも周りを見下していた。
他人から良く思われることが
何よりの快感だった。
そして、私の嘘を簡単に見破らない
オトナや同級生を心底蔑んでいた。
最高に気持ちが良かった。
いい子でいる自分が
何よりも気持ちよかった。
そんな子供時代から年月が経って
私ものらりくらりと大人になった。
一応社会人の真似事もして
自分の身を売ったり、
自分で仕事を掴む作業もして
自分の身の程を知る機会が何度も訪れた。
私は昔より嘘をつかなくなった。
そんな気が最近している。
でも、だからなのか
毎日があの頃より苦しい。
嘘で塗り固めた自分で生きる方が
よっぽど楽だった。
私の本当に欲しいものは
今何も手にできていない。
あの頃息を吸うように手に入れていたものが、今の私にはない。
空っぽの肉体で生きている気持ちになる。
誰かが私の人生から
私の大事な部分を盗んでいった。
それが誰なのか
実は少しずつ気づき始めていて
でも気づきたくなくて
私は自分の心に嘘をつくようになった。
嘘つきはなんの始まりだったかな。
嘘つきは泥棒の始まり
June 5, 2023